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鈴木規之 会長 鈴木規之(国立研究開発法人国立環境研究所 環境リスク・健康研究センター/センター長)

会長就任のご挨拶

このたび環境化学会会長を拝命いたしました。

1990年、森田昌敏会長の下で発足以来、日本の環境化学研究の中心として大きな役割を果たしてきた環境化学会で会長を務めさせていただくことは大変名誉なことと受け止めております。謹んで学会の発展のため努力してまいります。

私自身は出自が工学系であり、また、国環研着任以降は数理モデル研究やリスク評価が中心の研究であったこともあって、分析法開発とモニタリングを中心とする学会の主テーマから少し外れたところで活動してきたかなと思っておりました。このため、今回、会長に推薦されるとは正直思ってもいなかったところ、お引き受けして改めて身の引き締まる思いです。初仕事として、まずはささやかながら一言述べさせていただきます。

環境中の化学物質に関する研究は、公害問題にはじまる環境研究の原点と言える研究領域であります。私が水道水の水質分析に関する研究を開始した駆け出しのころ、酸分解で水銀の分析値が大きく変わるという半谷高久先生のご研究があったという知識を得て、化学分析にかかわる化学の深さに感銘を受けた記憶があります。その後、水道水の微量分析、ダイオキシン分析などの経験を持たせていただき今に至りますが、その間、環境分析、環境化学会で議論される発表は、常に化学分析の一つの最先端であったように思います。最先端の分析技術を用いた環境監視を地方環境研究所が高い専門性を持って担い、各地の大学がこれらの基礎科学を支える役割を担い、また、民間の分析機関が行政の求める高度な分析を支える、そんな体制が動いていたように感じます。

しかしながら、環境化学会をはじめとする研究により、分析技術の進歩や展開によって環境分析が広く一般的な技術としてとらえられるようになったことの逆の結末として、今度は最先端科学としての分析化学、環境分析まで、悪く言えばだれでもできる一般技術の一部として軽視されているような感覚があります。特にさまざまな環境化学の外の方と話している中で、こんな理解が広まっていてよいのかという危機感を感じます。

改めて学会のこれからを考えるに、まずはどのような組織においても継続と発展が大事だと思っております。環境化学会は、特に近年、柴田前会長のもと若手・中堅や地方支部の活性化や英文誌刊行など多くの新しい展開を進められてきたと思います。地方部会や幹事会、また学会誌や国際誌などの学会内の各組織での議論が活発になっていると感じており、学会員全員の知恵と力を生かす新たな方向に進みつつあると思います。私としては、まずは柴田前会長の作られた新たな流れをしっかり進めていきたいと思います。同時に、次のステップとして、環境化学研究のさらなる活性化を目指して、例えば網羅分析や超精密質量分析など新たな分析・情報科学研究、また影響や評価に関わる関連分野との連携などを可能性として考えますが、まずは足元からよく考えつつ、私として環境化学になしえる貢献を考えて進めてまいります。今後とも環境化学会へのご支援を賜れれば幸いです。

鈴木規之